Bad Decisions

先日、アメリカの航空機事故に関するテレビの報道で、ちょっと気になる表現がありました。事故原因について「悪い決定がいくつか重なった」とトランプ大統領が発言した、とのことでした。

…「悪い決定」ってなんか不自然な感じだけど、おそらくbad decisionの訳なんだろうなぁ。自分だったらどう訳すかなぁ。「判断ミスが重なった」だな、うん。…などと考えながら海外のニュースサイトをチェック。やはり、元の表現は a confluence of bad decisionsでした。

decisionの定番訳は「決定」ですし、badは「悪い」です。「悪い決定」と訳してもハズレとは言えませんが、日常的に使う表現ではありません。この文脈では「判断ミス」の方がピンと来ます。

定番訳は安心、それ以外の訳し方をするのは勇気がいる、というのは翻訳者によくある心理です。が、日本語として不自然な表現をそのままにしておいて安心するというのも、変な話です。日本語と英語の単語なんて一対一には対応しませんし、そもそも単語の意味は文脈に影響されて変化します。定番訳がしっくり来なければ別の表現にするのは当たり前のはずですが…その勇気が出ないのですよね(^^;)。

勇気を持つためには、解釈の根拠をはっきりさせることです。なんでその訳にしたのかを自信を持って説明できるように、自分の考えを整理しておくことです。「管制官やパイロットが業務遂行中に行う『決定』は、『判断』に他ならない。『進路を変える』『高度を下げる』というのは『決定』とも『判断』とも表現できるが、『判断』とした方が通じやすい」というような感じです。

似たような状況で一般人にとってより身近なのは、自動車の運転免許の教習ですね。免許を取った方は、教習所で「認知・判断・操作」ってフレーズを習ったと思います。これに相当する英語が IPDE。 Identify, Predict, Decide, and Execute の頭文字を並べたものです。日本語より1ステップ多いぞ…というのは置いておいて、この訳を考えてみましょう。

Identify, Predict, Decide, and Execute の定番訳を体言止めの形で並べると、「特定・予測・決定・実行」となります。なんだか自動車の運転の話と言うよりはIT処理のフローチャートみたいですね。教習中にこの言葉を使われたら「???」となってしまいそうです。日本の教習所の表現に寄せて「認知・予測・判断・操作」とした方がずっとピンと来るはずです。スムーズに伝えるためには、定番訳から離れ、その状況で良く使われている表現に落とし込むことも必要なのです。

もちろん、定番訳自体が悪いわけではありません。状況によっては合わないこともある、というだけの話です。

翻訳作業は decision の連続。"Your translation is a confluence of bad decisions." なんて言われたら泣いちゃいますね(笑)。機械的な選択は機械翻訳に任せて、常に良い判断ができるように心がけたいものです。人間だもの。