Tailgating のもう一つの顔
まだまだ続くtailgating 談義。今回は前置詞のお話。
前回は、以下の例文をご紹介しました。
I was tailgating on the track last Sunday when it suddenly started raining.
「この前の日曜、サーキットで前のクルマにぴったり付けてたら、突然雨が降り始めてさぁ」
では、次の文はどのように解釈されるでしょうか?
I was tailgating at the track last Sunday when it suddenly started raining.
「同じじゃないの?」と思った方は、注意不足。the track の前の前置詞が on から at に変わっています。実はこれだけで文脈が変わってしまい、文全体の意味も変わってしまいます。
on は基本的には「接触」を表す前置詞です。on the track は「軌道にくっついている」、つまり「コースから外れていない状態」をイメージさせます。「コース上を走行中」の意味では、on the track と表現するのが普通です。
at は場所を表すのに使われる前置詞で、特に何かのイベントや活動の会場を表すにはぴったりです。at the track には「走行中」のニュアンスは特になく、サーキット内のどこで活動していてもあてはまります。パドックや観客席も含みます。
on the track と at the track はどちらも「サーキットで」と訳せますが、イメージはズレているわけです。「で」の中身が違うんですね。
さて、at the track の場合、走行中ではないのですから「前走車を追い回していた」というイメージにはつながりづらいですね。そうすると、tailgating は別の意味に取りたくなります。実は、tailgating には「クルマのリアハッチを屋根代わりに、屋外パーティをする」という意味があります。まぁ、辞書には「パーティ」と載っていることが多いですが、折り畳み椅子を出してちょっとわいわいやっている、というぐらいのことです。サーキットでよく見る光景です。
前車の tailgate を追い回したら「煽り運転」、tailgate を屋根として活用したら「テールゲート・パーティ」。tailgating をどちらの意味に取るかは、文脈で決まります。on が at に変わると、全体の文意は次のようになります。
I was tailgating at the track last Sunday when it suddenly started raining.
「この前の日曜、サーキットでトランポの後ろでわいわいやってたら、突然雨が降り始めてさぁ」
「トランポ」というのは「トランスポーター」の略で、レース用のバイクを積んでいくワンボックスカーなどを指します。サーキットに興味のない人には分からない日本語かと思われますので、念のため解説(笑)。
tailgating は「テールゲーティング」とか「テールゲート・パーティ」と訳す手もありますが、敢えて避けました。平野はもう10年以上も趣味でサーキットを走ってますが、そんなカタカナ語は聞いたことがないからです。英語の tailgating は一般の人でも意味は分かると思うのですが、「テールゲーティング」とかは日本人にとって全く馴染みのない言葉ですから、訳語として選ぶのは不適切です。
前置詞ひとつ変われば全体の文意が変わる。当たり前のことなんですが、見落としやすいですね。これだから英語は怖いんです。面白いんです。
怖いと面白いは紙一重。サーキット走行も一緒だなぁ。英語もスポーツ走行も、無理なく安全に楽しみたいものです。