悪意のない Tailgating
ちょっと前に「煽り運転」は tailgating と表現できる、というお話をしました。では、次の文はどのように訳せるでしょうか。
I was tailgating on the track last Sunday when it suddenly started raining.
ここでの track は「サーキット」とか「レース場」の意味。circuit とか racing course という言葉もありますが、track の方が良く使われます。そういう場所での tailgating ですから、悪意のある煽り運転というより、前走車にぴったり付けて抜くチャンスを伺っていたという感じでしょう。
ですが、そうした解釈がきちんとできていても、適当な訳し方だと正しく伝わりません。次のド直訳の例を見てください。ギリギリ誤訳にはなっていないのに、不自然で読みにくく、間違った意味を伝えてしまいやすいパターンです。
「雨が突然降り始めた時、先週の日曜日、トラックで煽っていました」
一番の問題は、カタカナ語の弊害。「トラックで」というフレーズは、書き手は「サーキットで」の意味で書いているのですが、読み手は「貨物自動車(truck)に乗って」の意味で取ってしまう可能性が高いですね。track と truck はスペルも発音も意味も違うのに、カタカナにすると同じ字面になってしまって、区別のしようがありません。その結果、勘違いが起こるのです。
tailgating に「煽っていました」という定番訳を当ててしまうのも考えもの。悪意はないのかもしれない、という意味に取れる余地を残すべきでしょう。また、「煽る」を「ですます」調と組み合わせると、「悪い奴が丁寧な話し方をしている」という妙な感じになり、しっくり来ません。英語を訳す時はなぜか「ですます」調にしてしまう人が多いのですが、それではニュアンスが伝わりにくいことも多いのです。
when 節の扱い方も問題。A when Bとなっている場合、つい「Bした時にAした」と訳したくなります。が、それだと日本語と英語で語順がひっくり返り、タイミングがちぐはぐな表現になりやすいのです。そのような場合は、「Aして、その時Bした」というように、原文の語順と同じになるように訳文を構成するのが効果的です。
「先週の日曜日」も、なんだか妙な位置にありますね。
それらの点を改善したのが、以下の例です。
「この前の日曜、サーキットで前のクルマにぴったり付けてたら、突然雨が降り始めてさぁ」
同じ原文を同じように解釈していても、訳文の作り方で伝わりやすさは全く違ってしまいます。正しく解釈をすることと、その解釈を適切に表現すること。どちらも丁寧にできるよう、心がけたいものです。