SDGs ― せめて「の」を入れません?
SDGs は何の略? Sustainable Development Goals ですよね。日本語訳は「持続可能な開発目標」が定番ですが、これちょっと問題じゃないですか、というお話です。
「持続可能な開発目標」を二つに分けるとしたら、どこで分けます?そりゃ「持続可能な」と「開発目標」で分けますよね。「持続可能な開発」と「目標」で分けて解釈する人は、まずいないでしょう。ほとんどの人は、このフレーズを読んだ時、「持続可能な目標」という係り受けで解釈するはずです。
ですが、「持続可能な目標」って、ちょっと考えると変じゃありませんか?目標とは、いつかは達成すべきものです。いつまでも目標のまま持続していてはいけないはず。「持続可能な」と「目標」は、論理的に相性が悪いのです。私は、最初に「持続可能な開発目標」という日本語を見た時にそんな違和感を覚えて、「なんか翻訳に問題がありそう」ということで、元の国連の SDGs のサイトで表現を確認してみたのでした。ひょっとすると、"Sustainable Development" + "Goals" と解釈すべきところを、"Sustainable" + "Development Goals" と解釈してしまったのではないか、と。
すると、やはり国連の英語サイトでは、Sustainable Development という概念が先にあって、その到達目標として 17 のゴールが挙げられている、という構成でした。Sustainable は Development にしか係っておらず、Goals には係っていないのです。この係り受けを日本語で再現するなら、「持続可能開発の目標」あるいは「持続可能な開発の目標」というように、「の」で区切らないといけないでしょう。
そして、内容を読み進めていくと、Development と Sustainable の訳語自体ももう少し調整したいなぁ、と思いました。
SDGs の場合、Development を「開発」という訳で統一するのは、無理があります。例えば、SDGs 関連でよく話題になることに「性別・性的志向による差別をなくすこと」がありますが、これを「開発目標」のひとつに数えるのは違和感がないでしょうか?「差別をなくすこと」を「開発」と称するのは、何か違う気がします。
実は、development は日本語の「開発」より意味が広く、「何かが広がっていく様」全般に使われます。「発展」「展開」「発達」など、自然な日本語訳は文脈によって様々に変化します。社会インフラの発展も、図面の展開も、腫瘍の発達も、すべて development です。「開発」は数ある日本語訳のひとつにすぎません。
17の目標を鑑みると、SDGs における development は、「技術開発」だけでなく「社会発展」の意味合いも強いです。「社会発展」の一環として「インフラや技術の開発」があるとも考えられます。「持続可能な開発」よりも「持続可能な社会発展」と表現した方が、17の目標すべてに自然に当てはまるのではないでしょうか。。
また、sustainable も日本語の「持続可能な」より少し意味範囲が広いです。sustainable は「支え続けられる」という意味での「持続可能な」です。そこから、「支持できる」すなわち「応援できる」「納得できる」「認められる」というようなニュアンスが派生しており、特に環境保護の分野ではその意味で使われることも増えたように思います。(とはいえ、この定義は辞書にはあまり載っていません。法廷用語としては、昔から「(主張を)認めます」という意味で "Sustained." という表現を裁判官が使っていますが。)
そうしたことを総合して考えた結果、私は、Sustainable Development Goals という言葉が表す内容は「誰もが納得でき、無理なく持続していける社会発展とは何か、それが目指すものは何か」ということだ、と解釈するに至りました。「持続可能な開発目標」という日本語は、そこに焦点が合っていない感じがするのです。
とはいえ、すっきりとした自然な日本語で、元の英語が持っている意味範囲全体をカバーするのは難しいです。比較的簡単な単語3つだけのフレーズですが、私にとっては英日翻訳の限界を感じさせるフレーズのひとつでもあります。個人的には「持続可能な社会発展活動の目標」という感じにしたいのですが、すでに「持続可能な開発目標」が定番訳かつ日本での正式名称となっていて、別の訳し方をすると同一性の判断に問題が出て読者を迷わせてしまいかねません。許されるなら、せめて「の」は入れたいところだなぁ、とは思いますが。