地球は沸騰になるの?

変なタイトルですよね。明らかに変な日本語です。今回も、ちょっとずれたまま定着してしまった新語のお話。

「地球沸騰化」という言葉をよく目にします。「昨今の異常気象は『地球温暖化』などという生易しいものではない。すでに『地球沸騰化』の段階に入っている」というような文脈でよく使われていますが、目にする度に「妙な表現だなぁ」と思ってしまいます。

「温暖」と「沸騰」は、言葉の性質が違います。「温暖」に「な」を足せば「温暖な」という形容詞になり、「温暖な地球」という表現は成り立ちます。が、「沸騰な」という形容詞は存在せず、「沸騰な地球」という表現は成り立ちません。「温暖」は「地球の状態のひとつ」としてあり得ますが、「沸騰」は地球の状態とは関係ない物理現象です。カテゴリ自体が異なりますから、扱い方も大きく異なります。

「XX~化」は「XXが~になる」と言い換えられるはず。「地球温暖化」は「地球が温暖になる」なので何の問題もありません。しかし、「地球沸騰化」は「地球が沸騰になる」になってしまいます。聞いた時の語感もさることながら、論理的にも違和感を覚えてしまいます。

これらの言葉は、以下の英語から翻訳されたものです。

  • 地球温暖化:  global warming
  • 地球沸騰化:  global boiling

global warming も global boiling も、もちろん英語では自然な表現です。「温暖化」も「沸騰化」も、同じような直訳です。ならばなぜ、boiling の訳だけが違和感のあるものとなっているのでしょう?それは、boiling の解釈が正確でないまま訳してしまったからだと思われます。この訳語を作られた方は、「boiling は『沸騰』と訳さなければいけない」というような思い込みがあったのかもしれません。ですが、日本語として妙な表現になっている時は、元の言葉の解釈をどこかで誤っていることが多いものです。

英語の boiling は日本語の「沸騰」よりも広い意味で使われ、「沸騰」だけでなく「(室温などが)ものすごく暑くなること」を表すときにも使われます。例えば、「この部屋、暑すぎだよ」は This room is boiling. と表現するのは、自然なことです。でも、日本語で「この部屋、沸騰してるよ」と言ったら変ですよね。boiling は「沸騰」と訳さない方が良い場合もある、ということです。

global boiling というフレーズでは、そもそも boiling は日本語の「沸騰」の意味では使われていません。「地球全体が沸騰すること」ではなく、「地球全体がものすごく暑くなること」と解釈すべきなのです。ですので、global boiling は「地球猛暑化」とか「地球灼熱化」と訳した方が本来のニュアンスに近いですし、日本語として自然でしょう。「猛暑になる」「灼熱になる」であれば、違和感はありません。

とはいえ、「地球沸騰化」という表現はすでに定着し、マスメディアでも良く使われています。今から正しい解釈の日本語表現に変えるのは、混乱を招くリスクが高いと思われます。

不自然な表現にもメリットはあります。自然な表現は、自然であるがゆえに気に留められないものです。不自然な表現は、「なんか変だな」という面白みがあり、記憶に残りやすかったり人の注意を引きやすかったりします。危機意識の掲揚を図りたい場面では有効な面もあるでしょうし、「地球沸騰化」は正にその例と言えるでしょう。そう思って、我慢することにします(笑)。